メカニカルハイビート36000

Caliber 9S85

10振動ムーブメントは、機械式時計の精度を司る「てんぷ」が1秒間に10回振動します。これを1時間に換算すると36,000回になるため、ハイビート36000の呼称がつけられています。
一般的なムーブメントは21,600振動/時(6振動/秒)または28,800振動/時(8振動/秒)であることから、10振動がいかに振動数の多いムーブメントであるかが分かります。

「てんぷ」は振り子のような規則正しい往復運動を繰り返すことで、ぜんまいの解ける速度や歯車が回転する速度を一定に制御(調速)しており、振動数が多いほど外乱の影響を受けにくいため、より安定した精度を得ることが可能になります。

過去、グランドセイコーは国産初の自動巻10振動モデルを3モデル完成させました。
  • 当時のグランドセイコー最高峰モデル「自動巻61GS」
  • 「自動巻61GS」より薄型でありながら姿勢差、外乱の影響に対する安定性に優れた「手巻45GS」
  • 世界初の女性用小型10振動モデル「19GS」

41年の時を経て、10振動ムーブメントは再び登場することになったのですが、それは単なる過去の復活ではありませんでした。

ムーブメント仕様

巻上方式 自動巻(手巻つき)
静的精度*1 平均日差+5~-3秒
携帯精度 日差+8~-1秒
持続時間(最大巻上時) 約55時間
振動数 36,000振動/時(10振動/秒)
石数 37石
その他機能 - 日付表示機能
  1. グランドセイコー独自の規格に基づき、工場出荷前にムーブメント単体の状態で、6姿勢差・3温度差の条件下で測定した場合の精度です。実際にお客様がご使用になる環境下での精度(携帯精度)とは異なります。また、メカニカルモデルの特性上、ご使用になる条件(携帯時間、温度、腕の動き、強いショックや振動)によっては、前記の精度の範囲を超える場合があります。

10振動復活への挑戦

時計理論上は理解できても、実際の製造は困難を極めました。課題となったのは、持続時間と耐久性です。

振動数の多い「てんぷ」は、ぜんまいの動力を多く必要とします。「てんぷ」に対して、往復運動を行う力を与え続ける必要があるのです。そのため巻き上げられたぜんまいを十分な時間、持続させるだけの大きなトルクが必要でした。

同時に「てんぷ」からの規則正しい振動で輪列を制御する「脱進機(がんぎ車、アンクル)」の、耐久性の向上も不可欠でした。

これらの課題をクリアするためには、主要部品を素材から見直し、各部品の強度を高めるとともに、部品精度をより一層向上させる必要があったのです。

ひげぜんまい

基本性能を向上させる新素材

9Sメカニカル製造の歴史の中で蓄積されたノウハウや知識をもとに、精度の要である「ひげぜんまい」の素材を見直すところからスタートしました。約5年かけて開発された新素材は、従来の素材に比べて耐衝撃性は約2倍、耐磁性は約3倍に向上しました。

脱進機(がんぎ車、アンクル)

パーツ精度の向上を図るMEMS技術

かつての10振動は、「がんぎ車」の歯数を増やすことで「てんぷ」の回転を速めていました。これは既存のムーブメントを容易に高振動化できる手法ですが、「がんぎ車」の歯数が増えることで、「てんぷ」の挙動にムラが生じてしまう、という欠点を持ち合わせていました。また「がんぎ車」の回転が速くなることで、油切れを起こしやすい点も課題でした。

そのため「キャリバー9S85」では、歯数を増やすのではなく、「がんぎ車」の前に「がんぎ中間車」を噛ませることで、輪列にかかる負荷を分散させる構造を採用しました。

また高振動化に耐えられるよう、パーツの耐久性を上げる必要もありました。そこで半導体の製造技術を応用した「MEMS (Micro Electro Mechanical System)技術」が採用され、パーツの寸法精度を上げ、パーツ表面の滑らかさを向上させるとともに、軽量化も同時に実現しました。

「がんぎ車」は、その形状も見直されました。
駆動効率から考えれば、歯の面は可能な限り平滑な方が良いのですが、平滑にすると潤滑油が拡散しやすくなってしまいます。そこで先端に油溜まりを設けて、平滑な面でありながら保油性も向上させました。

動力ぜんまい

高速振動に必要なトルクと
実用的な持続時間をかなえる

10振動ムーブメントは振動数が多い分、動力を多く必要とするため、大きなトルクを確保できる「動力ぜんまい」が必要でした。そのため「ひげぜんまい」と同じく「動力ぜんまい」もまた、 素材の見直しからスタートしました。

6年をかけて完成した新素材は、それまでのスプロンをベースに新たな素材を加えることで、同程度の耐食性、耐久性、耐磁性を維持したまま、バネ力を約6%、持続時間を約5時間向上させることに成功しました。

さらに厚みを増すことで10振動を実現しながら、最大巻上時約55時間持続も可能にしました。

9Sメカニカルとは

約200点のパーツから構成される機械式時計は、パーツ精度がムーブメントの精度を左右する。
どこまでもシンプル。だからこそ、問われるのはパーツ製造技術と職人の加工技術。
グランドセイコーのマニュファクチュールとしてのイノベーションは、この9Sメカニカルムーブメントに凝縮されている。

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