グランドセイコーの真髄と日本の美意識を高い次元で融合させた、新たなデザイン文法
グランドセイコーのデザインを規定する「セイコースタイル」。そのデザイン文法を発展させ、腕時計としての使いやすさや美しさをさらに追求した独自のデザイン文法「エボリューション9スタイル」が2020年に誕生しました。これは、1960年の誕生以降、絶え間なく進化を続けてきたグランドセイコーが、その根底にある美学と品格を深化させるべく編み出した、新たなデザイン文法です。
東洋では、光と陰を対照的な存在とみなす西洋に対し、それらを共存させることに美を見出すとされています。その中で日本人は、光の表現に鋭い感覚を示し、光と陰とが織りなす無数のグラデーションを繊細に感じ取ります。そこには、光と陰が共存する中で、尽きることなく現れては、折々の趣を織りなす「中間の美」を慈しむ心があります。セイコースタイルが定義しているのが、陰と隣り合うことで一層際立つ光の美しさであるのに対し、エボリューション9スタイルは、この日本人独自の感性をデザインに昇華させるために、光と陰のコントラストとともに、その中間に存在する多様なグラデーションの美しさを追求しています。
この日本人独特の美意識は、日本の自然環境や風土、ひいては、人々の生活様式の中で培われてきたものです。豊かな自然に恵まれ、樹木が豊富に存在した日本では、神社仏閣などの大規模な木造建築が盛んになり、その技術が発展を遂げてきました。高温多湿で地震の多い日本にとって、優れた調湿効果と耐震性をあわせ持つ木造建築は、その風土に適していたことからも、やがて住居の主流となりました。伝統的な日本の建築は、住居の内と外を分離させることなく、部屋の外側に縁側を設け、自然と調和するかのように、屋外と部屋をゆるやかにつなぐ開放的な構造になっています。屋外と部屋の境目に、縁側というゆとりの空間を設けたのは、夏の暑さと冬の寒さを和らげるための先人の知恵でした。縁側があることによって、夏には室内に風が通り抜け、暑さを和らげることができ、冬には冷気をさえぎり、暖かな陽の光を届けてくれます。快適な暮らしのために考案された日本特有の住居は、庭木に咲く花や舞い降りる雪を眺めたりするなど、家の中にいながら、移ろいゆく季節の情趣を五感で味わう心地よい空間にもなっています。
その室内には、直射日光を遮断するために設けたひさしや縁側、障子を通して射し込む柔らかな光が広がります。光と溶け合うような、ほのかな明るさや、陰を優しく包み込むようなほの暗さ。これらには移ろう時とともに形や濃淡を変える豊かなグラデーションが見られます。その繊細な変化でさえも敏感に感じ取り慈しむ感性は、日本の気候風土と長い年月をかけて醸成された生活様式の中で培われた日本人ならではのものです。
光も陰も大切にし、光と陰の間に生まれる中間の美を愛する。エボリューション9スタイルが重きを置くのは、このような、時を超えて醸成されてきた日本の美意識です。このデザイン文法は、グランドセイコーの核となる美学の源泉を深め、さらなる進化を遂げるべく生み出されました。
エボリューション9スタイルは、デザイン文法の核となる3つのデザイン方針を新たに定めています。一つ目は、「審美性の進化」。セイコースタイルの根源にある日本的な美意識や自然観を、より鮮明にすることを主眼に置き、光と陰が共存する関係の中で日本人が大切にしてきた、光と陰の中間の美の豊かさや、柔らかくほのかなグラデーションを、より確かに描き出す造形を実現します。それは、平面と平滑な曲面を立体的に連ねた張りのある形状であり、歪んだ曲面は原則として採り入れません。歪みなく平滑に磨かれた鏡面で「闇の黒」と「光の白」を端的に描きながら、光と陰の中間にある「ほの明るさとほの暗さ」を体現するヘアライン面を随所に共存させることによって、日本の美意識と呼応する、光を美しく流す造形を実現します。
二つ目は、「視認性の進化」。針とインデックスを、さらにめりはりを高めた形状に進化させ、それぞれの識別性を向上させています。その範としたのは、ブランドの起源である、1960年誕生の「初代グランドセイコー」です。多面カットを施した堂々たる針、溝の入った立体的なインデックスなど、1967年に確立したセイコースタイルにおいても改めて定義された、時間を読み取りやすくするための細やかな配慮。このグランドセイコーらしさともいえる時計の本質と向き合う精神を受け継ぎ、さらに視認性を向上させながら、一層独創性を高めたダイヤルデザインを実現します。
三つ目は、「装着性の進化」。装着性は、極めて重要な性能の一つです。ケースの重心位置を下げ、かん幅をより広くすることで、横方向のぐらつきを抑え、ケースをしっかりと腕にフィットさせ、心地良く、安定した装着感を実現します。
審美性、視認性、装着性という3つの進化を軸として、新たに制定されたデザイン文法。これをもとに生み出される「正確で、見やすく、美しく、永く使える日本の腕時計」は、威風堂々とした佇まいをまとう次の時代のグランドセイコーを代表するデザインです。
Principle 1
セイコースタイルの根源にある、日本的な美意識や自然観を更に強く具現化する。
Principle 2
針と略字を、更にめりはりを高めた形状に進化させ、視認性を向上させる。
Principle 3
重心を低く、首を太くし、時計のホールド性を高め安定した装着感を与える。
エボリューション9スタイルは、セイコースタイルが定めるルールを受け継ぎながら、3つのデザイン方針をもとに9つのデザイン要素を独自に定義しています。これにより、光が流れるような張りのあるカーブフォルムを基調としつつ、稜線が際立つ本来の造形が生まれます。
ケースは鏡面を包み込むようにして上面と側面を繊細なヘアラインで仕上げた立体的な造形となり、ベゼルは、平滑なヘアライン面とゆがみのない鏡面を連ねています。ゆがみのないヘアライン面は、筋目の細かな溝が光を受けることによって、その形状そのものを浮かび上がらせ、光のあたる角度や強弱によってほのかな明暗の移ろいを導き出します。これらの要素は鏡面の美しさを際立たせる効果ももたらします。ザラツ研磨によって歪みなく整えられた鏡面は、深い陰影とまばゆい輝きの両面を持ち、中間の柔らかな光をもたらすヘアライン面との調和によって豊かな光のグラデーションを体現します。それにより、日本の美意識に根差した審美性がさらに高められています。
視認性を更に向上させるために、時針は分針と明確に区別された形状とし、分針は目盛までしっかりと届く形状になっています。立体的な多面インデックスは、その全ての中央部に深い溝が入ることでわずかな光も捉え、目盛の位置をより正確に判読できるようデザインされています。また、装着性をさらに向上させるために、ガラスの取り付け位置を低くすると共に、ケース側面にあえてボリュームをもたせることで、腕時計の重心位置を下げています。さらに、ケース径の1/2以上の幅と、適度な厚さをもった安定感のあるブレスレットを採用することによって、腕に対するホールド性を高め、重さや大きさを感じさせない優れた腕なじみを実現しています。