祈りと魂を込めた絵をとおして、“大和力”を世界へ発信
—— 小松美羽(現代アーティスト)
2015年『天地の守護獣』が大英博物館日本館に永久展示、2019年VR作品『祈祷=INORI』がヴェネチア国際映画祭 VR部門ノミネート、2020年「24時間テレビ 愛は地球を救う」“チャリTシャツ”のデザイン……。神獣などをテーマにした独自の表現で快進撃を続ける、現代アーティストの小松美羽さん。彼女の創作世界、そしてクラフトマンシップとの関わりを聞いた。
Photos: 蛭子 真 Shin Ebisu Words: 小長谷奈都子 Natsuko Konagaya
“大和力”とは、いろいろなものを融合し、デザインする力
長野の自然豊かな環境で、目に見えないものの存在を感じながら育ち、幼い頃から画家を目指していた小松さん。いま、銅版画や絵画、立体作品、ライブペインティングなど、その多彩な作品のなかで表現されるのは、狛犬、龍、麒麟といった神獣たち。そこで大切にしているのが“大和力”だ。
「“大和力”というと日本の力と勘違いされることもあるのですが、“和”は昔の言葉で私を指す言葉。その“和”に対して、いろいろな文化や宗教、歴史などが、デザインされ、まとまっていく力が“大和力”なんです。大和力を用いて、いままで学んできたことを“大調和”させながら作品に落とし込む。それがいま取り組んでいることです」
こちらをギョロリと見据える大きな目、いまにも飛びかかりそうな迫力、そしてダイナミックな色使い。小松さんが描く神獣たちには不思議な生命力がみなぎり、見る者を圧倒する。そこには、アートは魂や心を救う薬だと考える小松さんの祈りが込められている。
「いつも作品に取りかかる前には瞑想します。瞑想して深い心理状態で自我をなくしたところからあふれてくるものを大切にしています。魂や心といった非物質的なものを豊かにしていくという概念は非常に大切なことだと思いますし、祈るという行為はどの宗教にもあるもの。祈る心には境界を超える力があると思うので、祈る心で落とし込むことで、必然的に大調和になり、それが“大和力”でもあるのです」
東西の神獣たちがうごめく、現代版の曼荼羅
取材に訪れたのは、京都・東寺の食堂(じきどう)。かつては運慶がここで制作したという場で、小松さんは、2023年に東寺の真言宗立教開宗1200年を記念して奉納される『ネクストマンダラ - 大調和』の制作に取り組んでいた。和紙にシルクを貼った支持体に、東西の神獣が入り交じる小松さんならではの曼荼羅(まんだら)がうごめいている。
「掛け軸での制作も、リキッドのアクリル絵の具をメインで使うのも初めての試み。軸の職人さんは普段は日本画を扱われているので、アクリル絵の具がどうかを心配されていましたが、何度もやり取りやテストを繰り返してなんとかうまくいっています。私の図案に沿って金箔を貼ってくださったのは金沢の職人さん。シルクは織り目があるので貼るのが難しいんですけど、凹凸やムラなく貼ってくださった。すばらしい職人さんたちのおかげで実現しているプロジェクトです」
2013年の出雲大社おかげ年、小松さんは初めて出雲を訪れ、正式参拝をしている時に八雲山(やくもやま)のあたりで雲が割れ、虹のような光が下から上へ向かっていたのを見た経験が、鮮やかな色を大胆に使ういまのスタイルにつながっている。グランドセイコーの「STGF345」を手にして、「宇宙が広がっているようなきれいな色」と見入っていた。そんな小松さんに、未来へ残したい日本のクラフトマンシップはなにかを尋ねた。
クラフトマンシップがあるものが必然的に未来に残っていく
「有田焼、博多織、京都の表具や着物、金沢の金箔など、いろいろな職人さんとご一緒させていただいて、いつも現場で感じるのは、クラフトマンシップが残っているのは革新を繰り返しているところなんですよね。伝統を大切にしながら新しいことに挑戦し、その時代時代に合わせた美に寄り添って進んでいく。そういうクラフトマンシップを大切にしているところは、人々に愛されますし、残っていく。だから、私が残すとか残さないでなく、必然的に残っていくんですよね。そういう方たちと仕事をしていきたいし、ともに革新を起こしていきたいと思います」