Hotel Producer 龍崎翔子
龍崎翔子が創造する、
ホテルという特別な空間
25歳にして、6つのホテルをプロデュースするという実績を持つ龍崎翔子。幼い頃に父と車でアメリカ横断をする中で感じた原体験を基に、そこから経てきた時間と現在のホテルプロデューサーへの道は地続きだった。ホテルプロデューサーとして、経営者として彼女は時間とどう向き合い、重ね続けているのだろうか。
ホテルという空間の魅力について龍崎翔子はこう考える。
ホテルとは、ただの寝る場所、夜を明かす場所ではなくて、お客様の人生のひとときをお預かりしているところだと考えています。普段とは違うライフスタイルを試着することができる、パブリックとプライベートが共存している空間だと思うのです。そして最近は、人々の抱く楽園思想を体現しようとしている空間でもあると感じていて、その虚構性すらも大きな魅力だと思います。
そのホテルをプロデュースしたいという衝動に駆られたのは、
「幼い頃に自分が泊まりたいと思えるホテルがなく、より良い選択肢を得るためには
自分で開発するしかなかったから」という。その心持ちが彼女をホテルプロデューサーへと導いた。
彼女はホテルプロデュースのブランディングを起こすために、どういったモノやコトからインスピレーションを受けるのか。
本当に些細なところからインスピレーションを受けることが多いと感じています。友人とのくだらない会話ですとか、Twitterで流れてきたネットニュース、飲み会で聞いた小噺、大昔の旅先で見かけた風景、その土地の歴史や景色……などが組み合わさっているように感じます。ひとつひとつは小さな気づきなのですが、少しずつ書き留め、反芻していくうちに紡がれていき、空間やサービスへと仕上がっていくイメージです。
彼女が考えるホテルという空間の創造の方法。
多くの企業がお客さんの時間を1分1秒という単位で奪い合っている中で、ホテルは当たり前のように1日をお預かりしている場所だと思っています。ホテルとは時の経過や生活・行動とともにある、そんな4次元的なメディアだと思うので、単なる空間として内装や外装、置いてあるものだけにこだわることではないと考えています。お客様が日常生活では出会わないアイテムや概念を宿泊体験を通じて深く知り、人生の新しい扉を開くようなきっかけになればと思っており、ホテル内に蒸溜所を併設したり、客室にレコードプレイヤーを置いたりなどさまざまな仕掛けを施しています。
今回の撮影場所であり、龍崎が体験・空間演出を手掛けている
「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベースシブヤ)」は、
4つのエリアに展示されている商品のQRコードからサイトへアクセスし、
買い物カゴを持たないスタイルでショッピングができるといった、
これまでにないメディア型のOMOストア。このホテルではない店舗において
彼女が普段ホテルをプロデュースする時の感覚や采配は、
どういった点に生かされているのだろう。
私がホテルプロデュースを始めた原体験が“選択肢がない”というところに対する課題感にあるため、CHOOSEBASE SHIBUYAの展示では、適切に情報を知り、ニュートラルにより良い選択をサポートできるような空間演出を心掛けました。また、ただ回遊するというよりは、実際に滞在する・使用することで価値発見をできるような仕掛け作りを目指しています。従来の売り場とは異なる導線が敷かれていることを生かせるように、例えば立ち止まって読みたくなるPOPやふと目に留まるような演出作品を壁面に設置しています。さらにそこで興味を持った方がQRコードから、スムーズにウェブサイトにアクセスできるような仕組みを取り入れるなど、空間とオンラインを融合して試したくなるような仕掛けづくりにチャレンジしました。
このCHOOSEBASE SHIBUYAには“タイムリミット”というキーワードが
掲げられている。さまざまなものに課せられた“タイムリミット”を彼女はこう考える。
私個人としてはさまざまなものが失われてゆくことは自然なことだと思っていて、それは当然残念ではあるものの、その移ろいゆく様も含めて、この世界の儚さであり美しさであるように感じています。
19歳という若さでL&Gグローバルビジネスを設立し、これまでに
6つのホテルをプロデュースした彼女は、多くの若い世代が
「やりたいことが見つからない」と口にする中で、ホテルプロデューサー、
経営者として自身の進むべき道を見定めることができたのだろうか。
正直なところ、自分自身も導かれるようにホテル経営を志したので、カルマだと思っています。そういうインスピレーションを得られるような機会を提供してもらえたこと、そして自己肯定感を育んでくれた親のおかげだと思います。
空間を創り上げるために自身の工夫やこだわりを忍ばせる彼女。
その彼女が自身を彩るためのコーディネートのこだわりとは。
特にこだわりはないのですが、スーツなどフォーマルなものはあえて着ないことが多くて、正念場ほど普段の自分らしい装いをするようにしています。そのほうが物事がうまくいくことが多いように感じますね。アウェイな場所に行く時もホームのままの姿でいる、という考え方ですね。
普段、朝7:30に起床し、8:45にはオフィスに着くというルーティンを持つ彼女。
全国各地のホテルを訪れることも多いため、移動時間も仕事に追われているのだろうか。
実は高速移動する乗り物の匂いが苦手なので、あまり作業などはせず、連絡に返信したり、読書したり、睡眠をとったりしてゆったり過ごすようにしていますね。
彼女のもっとも大切な時間とは。
週に1度、家族と食事する時間。それと、日々自分の優先順位が最下位になるような生活を続けているので、月に1回ネイルをしに行く時間は大切な時間です。
受験時は日々試験時間を計り、親からの入学祝い、
そして現在のパートナーからの初めてのプレゼントも腕時計で、
腕時計は大切なアイテムだと話す彼女。
そんな彼女の腕を彩ったグランドセイコーに対して。
程良い重量感があって、すごく肌なじみも良くてしっくりきますね。クールさと優雅な華やかさが両立し共存しているように感じられる。ニュートラルな面持ちなので、どんな人が着けても似合うだろうなあ、と思います。普段から自分のネイルを眺めたりするのが好きなんですけど、この腕時計もダイヤモンドと白蝶貝の輝きを仕事の合間にうっとり眺めてしまいそう。思わず目が喜んでしまいますね。
20代半ばで、すでにいくつものホテルプロデュースを成し遂げた龍崎翔子は、
これからどんな歳の重ね方をしていきたいのだろうか。
「千と千尋の神隠し」に出てくる湯婆婆のように、歳を重ねるごとに、自分自身の人格が削り出されていって浮き彫りになるような、若者にはない良い意味での“エグみ”が出せるような人になりたいと思っていますね。
そしてこれまでにプロデュースしたホテルの中で、地元でもある京都の
「HOTEL SHE, KYOTO」と、オープンしたばかりの金沢の「香林居」、
それぞれに対する彼女のこだわりと創造についても教えてくれた。
「HOTEL SHE, KYOTO」は、私の故郷でもある京都の外れ、東九条の烏丸通り沿いにあることと、ホテルの持つ安寧の地としてのニュアンスを託して“最果ての旅のオアシス”としてのホテルを作ろうと、レセプションにアイスクリームパーラーを設け、ホテルならではの敷居の高さを取り払うことを念頭に置きました。
そして、最近オープンした金沢の「香林居」は、この地で薬局を営んでいた僧の名前に由来する、香林坊の歴史や空気感からインスピレーションを受けて、蒸留所を併設し、金沢の水と天然の精油を使った地産地消のアメニティの開発もしました。
このように、その土地ならではの特色を踏まえてプロデュースすることが私のこだわりでもあり、クリエイティブの源になっていると思います。
最後に、ホテルを“人が人をケアする空間”と読み替え、産後ケアホテルなどを
開発したいと、その準備も進めているという彼女。
今後、ホテルをプロデュースしてみたい都市について彼女はこう残してくれた。
台湾にホテルも併設したビーチリゾートを作りたいと思っています。
沖縄と同じ緯度で豊かな風景があるものの、まだのどかで開拓し切れていない魅力があるように感じているので。
Interview
Text:松本 渉 Wataru Matsumoto(PineBooks inc.)Photos:松木宏祐 Kosuke Matsuki
Movie
Director:松本 渉 Wataru Matsumoto(PineBooks inc.)Camera:松木宏祐 Kosuke Matsuki
Light:浦田寛幸 Hiroyuki Urada
Styling:細沼ちえ Chie Hosonuma
Hair&Make-up:山口恵理子 Eriko Yamaguchi
Online Edit/Colorist:鯉渕幹生 Mikio Koibuchi
Online Edit:黒田義優 Yoshimasa Kuroda
Production: トキオン TOKION