Social Vision
Produced by AERA STYLE MAGAZINE for Grand Seiko
「THE NATURE OF TIME」
時が育む、美しいニッポン Vol.4
自然と共に歩みつづけるグランドセイコー。
内藤社長とセイコー社員の鼎談から考える
「THE NATURE OF TIME」の意義
グランドセイコーがブランドフィロソフィーに掲げる「THE NATURE OF TIME」。そこに込められた意味とメッセージについて、セイコーウオッチの代表取締役社長、内藤昭男に伺う。さらに自社の環境保全活動に参加したふたりのセイコーウオッチ社員を加え、自然への敬意と共生に根差したセイコー独自のSDGsへの取り組みについて語っていただいた。
- Photograph : Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT INC.)
- Text: Mitsuru Shibata
- Edit: Ai Yoshida
- Direction:Teruhiro Yamamoto (YAMAMOTO COMPANY)
セイコー社員が環境保全活動に積極的に携わる理由
2021年、岩手県とセイコーウオッチ、盛岡セイコー工業は、地方創生および持続可能な地域社会の実現に向けた活動を協働で推進することを目的とした包括連携協定を締結した。その一環として、久慈市にある平庭高原の31万本以上という日本一の白樺林の保護活動に取り組み、地域住民と共に社員やその家族が定期的に植樹や整備を続けている。
本質と自然。ふたつの意味を持つ「THE NATURE OF TIME」
「THE NATURE OF TIME」は、グランドセイコーが腕時計の機能的な価値だけではなく、感性的価値や社会的な価値を盛り込み、日本のラグジュアリーブランドであることを明確に定義するために掲げたブランドフィロソフィーである。
「そのNATUREにはふたつの意味合いがあり、ひとつはいわゆる自然で、日本には非常に美しい四季があります。さらにそれぞれを6つに分けて、二十四節気として細かい季節の移り変わりを実感し、日々の暮らしにとり入れています。商品企画やデザイン、技術にしても自然から強く影響を受けています。もうひとつは本質という意味で、私たちは時計の機能を高い次元で達成する職人を匠と位置づけ、その真摯(しんし)な姿勢こそが時計の本質を極めると考えています。技をひけらかすことなくより深く内省し、次の世代にどうやって引き継ぐかも含めて長年突き詰めていく。こうした求道に近い精神性と、日本人の繊細な時(とき)に対する感性はグランドセイコーに注がれ、グローバルなマーケットでも高く支持されています」
こうした自然と向き合う姿勢が、SDGsの活動にもつながっていると内藤社長は語る。
「ただサステナブルな社会を作るための素晴らしい社会貢献も、事業と乖離(かいり)してはそれこそ長続きしないでしょう。渋沢栄一氏が目指した、公益と私益を経営の中で一緒に達成するという考え方は現代にも通用します。そこで岩手県と包括連携協定を結び、自然の保護や地域の活性化、あるいは人の育成を通し、SDGsと事業のゴールを一致させています。グランドセイコースタジオ 雫石のある盛岡セイコー工業では、50年以上にわたり周辺環境の保護活動を行っており、近年では生物多様性の保護を目指し、会社の活動として敷地内の森林や樹木、昆虫や生物を大切にしています。そこは社員の子どもたち、あるいは地域の子どもたちに環境教育や大切さを教える場にもなり、今回、雨水を浄化して循環させる『わくわくトープ』という生物多様性を保護する施設を作りました。 来年ぐらいにはホタルもやって来るんじゃないでしょうか」
「平庭高原には私もこれまで2回訪れて、地域の人たちと一緒に保全のボランティア活動をしました。この数年、自然に触れることがなかなかできなかったこともあり、私もそうですし、参加した社員の皆さんもリフレッシュしたようです。SDGs推進室として渋谷さんはどのように活動を進めているのですか」(内藤社長)
「SDGs推進室では社員から募集し、手を上げていただいた方に平庭高原の森林保全活動に参加いただいています。前回7月には内藤社長や役員の方を含めた33名の社員の皆さんに参加していただいて、白樺林の整備や清掃を行ってきました」(渋谷さん)
「私自身参加して、自然の力って強いなとあらためて実感しましたし、社員の皆さんもこうした自然と触れ合う体験が必要だと思いました。いま日常生活は本当にバーチャルやオンラインでなんでもできるんですが、やっぱり360度すべての感覚で体感するのとは大きな違いがありますからね」(内藤社長)
「そうですね。それもただ観光で行くのではなく、やはり保全活動を行うことで、より身近に感じることができたと思います。現場を訪れ、これがグランドセイコーの通称『白樺ダイヤル』のモチーフになった平庭高原なのかと感じてセールストークにつなげていただいたり。ちなみに終了後に参加者にアンケートを実施したところ、回答者全員が機会があればまたぜひ参加したいとおっしゃっていただいて、SDGsの意識を根付かせるよい機会になったと手応えを感じています。今後も継続していきたいと思います」(渋谷さん)
「ゆくゆくはグローバルに参加を募集したいですね。この活動はデジタルメディアに発信していて、すでに海外のファンの間でも話題になっているんですよ。本当に幸運だと思うのは、白樺モチーフのモデルのように、こうした活動が私たちの時計作りと深く結びついていることです。特に社員の皆さんと参加して、誰もが仕事ではなく、本当に自分の意思として取り組んでいたことに非常に感動しました。グランドセイコーの商品企画を担当する髙島さんは、どんなきっかけで参加されたのですか?」(内藤社長)
「私はいま入社3年目で、コロナ禍とあって業務もそうなんですが、社内でのイベントも本来経験したかったことが一切できなかったのです。そんなとき、今回の平庭高原の森林保全活動の話を聞いて、真っ先に参加しようと思いました。すぐに参加メールを返していましたね(笑)」(髙島さん)
「それは積極的ですね。確かにこの数年は社内のコミュニケーションも図りにくく、時代の流れも仕事とプライベートを分ける傾向にあります。でも業務の中だけで人間関係を築くのは難しく、組織としてもあまりいい方向ではないように思います。そのなかで平庭高原の活動は、仕事とプライベートのミックスというか、個人的な興味から参加していただき、自然な形で人の交流が深まるし、いろんな部署の人とのネットワークができる。これも広い意味での人材育成のひとつだと思っています。今回活動に参加して、どんな印象を持ちましたか?」(内藤社長)
「私が商品企画に本格的に携わる前に白樺林から着想を得たモデルはすでに発売されていて、モチーフになったきれいな白樺は資料などでも見ていたのですが、実際の白樺林は絡んだ蔦を取ったり、草を刈ったり、自分たちが手を入れることでより美しくなることを実感しました。自然の景色がどういうふうにして成り立っているのか。人が携わることで本来の美しさを増すという関係性にも注目して、今後の商品企画につなげられたらいいなと思いました」(髙島さん)
「グランドセイコーもまさに自然との共生をテーマにしています。そして私は、その根幹こそ、どういう人たちがどんな思いで作っているかだと思っています。そのなかでグランドセイコースタジオ 雫石は本質と自然、ふたつの意味を重ねたブランドフィロソフィーを体現する場として大変重要であり、今後カスタマーエクスペリエンスを積極的に進めていきたいと思います。生物多様性も含めた保全活動や、働く人たちの自然を大切にし、次世代へつなぐ意識もその総体であり、単なる物づくりだけでなく、自然との向き合い方すべての統括が、グランドセイコーというブランドの世界観になっていくと思います」(内藤社長)
2022年8月、盛岡セイコー工業敷地内に
「わくわくトープ」を開設
盛岡セイコー工業は、岩手県立大学の協力を得て、「わくわくトープ」と名付けた水資源循環機構を備えたビオトープ※を8月に開設した。総面積2833㎡には池や湿地、レインガーデンを設け、さらに自生する山野草や樹木52種を植栽し、水辺を含む多様性ある新たな生態系の創出を目指す。水資源の循環機構は、雨水を自然ろ過で浄化し、恒常的な水質維持と改善を行なうとともに、将来的には工場内排水も水源の一部として利用を予定することを目指している。
※ビオトープとは「ビオ(生物・生きる)」と「トープ(空間・場所)」を合わせた言葉で、生物の生息環境を自然に近い状態で人工的に復元した空間のこと。